サンタと猫

 今日、兄ちゃんとゆうちんは家にいます。お休みなんだそうです。
 ぼくも家にいます。さむいからです。
 ママが「雪が降るといいね」と言いましたが、ぼくはそう思いません。さむいからです。

 ゆうちんはいっぱい楽しそうでした。きのうも、そのきのうも楽しそうだったけど、今日は1ばん楽しそうでした。
 ゆうちん、ゆうちん。なんでそんなに楽しそうなの?
 そうきいたら、ゆうちんは
「たーくんすき」
 って言いました。やった!

 ……ううん。ちがう。
 答えになってないと思います。

 ゆうちんが答えてくれるまで、ゆうちんの周りをウロウロしました。でもつかれたので、兄ちゃんのあぐらにゴロンしました。ふぅ。毛づくろいをすると、あごの毛が口に入ってとれません。うー。さいきん毛がのびたから大変なんです。首をうんとそらしてがんばります……が、とれません。もうイヤ!
「たーくんまたやってる」
 兄ちゃんが笑います。笑う前に助けてよ! ……と思っていたら助けてくれました。ありがと。人間のゆびってべんり!
「ゆうちゃん、もう寝なさい」
 はなれたところからママが言いました。ゆうちゃんは「えー」ってイヤイヤの声を出しました。
「サンタさん、ゆうちゃんが寝てないの見たら困るから」
 でもママがそう言うと、ゆうちゃんは
「ねる!」
 と言って大いそぎでおへやにダッシュ。ぼくをだっこして。

 ぼくは、なんでゆうちんが楽しそうなのか分かりました。さんたが来るのです。さんたは、夜にこっそり入ってくるおじさんです。でんせつのドロボウだとにぃには言っていました。ドロボウはわるい人だけど、さんたはいい人だからでんせつなんだそうです。そんなさんたを、ゆうちんはずっと前から楽しみにしているのです。ゆうちんはさんたが好きなんです。きのう、ゆうちんはぼくにおねがいしました。
「たーくん、サンタさん来たらおしえてね。ぜったいだよ!」
 って。なので、ぼくはゆうちんといっしょにねるのです。

 さんたが来たらおきて、ゆうちんをおこすんだ!
 ぼくは耳としっぽをぴーんとさせて、ゆうちんのおへやをパトロールします。すると足音が聞こえてきました。
 ガチャリ。ドアが開きました。おおお……! さんた! さんた!?
 ぼくがドキドキしていると、
「ゆうちゃん。忘れ物」
 と言っておねえちゃんが入ってきました。ガッカリ。
 おいしそうなにおい。おねえちゃんは、ミルクとクッキーをもっています。さんたにあげるんだって、今日おねえちゃんとゆうちんが作ったんです。
 ぼくはおねえちゃんの足にすりすりして、中に入ってきたおねえちゃんに「ほしいよぉ」って言いました。でもおねえちゃんはミルクとクッキーをおへやのテーブルにおくと、ぼくが食べれないようにガラスのふたをしました。ううう……。ぐれてやる。さんたにはあげて、ぼくにはくれないなんて。
 ゆうちんも、そんなにさんたが好きなの!? うー!

 ゆうちんはねました。ぼくも、ゆうちんのとなりで丸くなったりのびたりします。おふとんぬくぬく。でもずっと中にいるとあついしくるしいから、ちょっと口を出すのがコツなの。あたまいいでしょ。

 さんたなんか来なかったらいいんだ。そんでゆうちんに「キライ」って言われちゃえばいいんだ。
 ゆうちんはねてるし、だれも見てないから、いっぱいわるい子なことかんがえました。そうしているうちにウトウトしてきて、ゆめの中で、ぼくはさんたに追いかけられました。ぼくがわるい子だから、ゆうちんのそばにいちゃダメって言うの。ぼくはいっしょうけんめい走りました。でもさんたはすぐに追いついて、
 ガチャ
 っていう音でおきると、ぼくはもうクタクタでした。ゆめかぁ……って安心してると、すぐ近くに人のけはい!
 さんたかもしれません。ドキドキ。また、追いかけられるのかな……。コッソリとあたまを出して、音のした方を見ます。すると人がいて、ぼくに向かって小さな声で
「たーくん。シー」
 と言いました。その声は兄ちゃん!
 なぁんだ。さんただったら、シャーって言って追い出してやったのに。そう思っているぼくの前で、兄ちゃんはガラスのふたをどかしました。いいにおい……。ウットリ。そして兄ちゃんは、すごいはやさでクッキーとミルクをぜんぶ食べてしまいました。

 ……えぇー!?

 ぼくはぽかーんです。兄ちゃんってそんなに食べるのはやかったっけ?
 兄ちゃんは、ぽかーんなぼくを見て笑うと、空っぽのお皿とコップのよこに四角いはこをおきました。
 ……ううん、ちがう、そんなことじゃなくて! アレ、さんたのだよね……?

 兄ちゃん、わるい子。

 ……あ、分かった。兄ちゃんも、ゆうちんがさんた大好きだからおこってるんだね!
 なかまッ。いっしょにさんたをやっつけようよ。ドロボウってわるい人だもん。やっつけてもいいよね! わるい人なのにぼくよりゆうちんに好かれるなんてイヤだもん!
 そう言うと、兄ちゃんはまた「シー」ってやって、ドアの方に行きました。ぼくはいそいで走って兄ちゃんに追いつくと、いっしょにドアから出ました。


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06.12.18