秘密といっしょに深く抱いて

 テルルは母と慕う女性の部屋に入ると、幼い彼女に似合った仕草で辺りを見回した。これから自分がとる行動を見る者が自分以外に居ない事を確認する。母のベッド脇の小さな棚の引き出しを、極力音が出ないように、そぉっと……。

 バタッ。

 びくぅ!

 パパ! と、テルルは背後のドアを振り向いて目を見開いた。ドアの所には黒髪に藍色の瞳の男性が居て、テルルを訝る様な表情をしていた。一瞬妙に気まずい空気になって、男性が取り繕うように何をしているのか質問しようとした瞬間、テルルは何もしていないと大袈裟に主張する。ああ、何かしていたな。そう彼に気付いてくれと言わぬばかりの反応だ。

 パパと呼ばれた男性が、テルルのもとへと歩み寄る。彼の広めの歩幅で3.5歩。テルルは猫騙しでもされたかの様に硬直して、それを見ていた。

 上から覗き込まれる。

 テルルがへたんと座り込んだ前には、彼女には大き過ぎる指輪と、革のブレスレットと……。

 幼い彼女の様に硬直した沈黙が流れて、パパは娘の頭を2度軽く、ぽんぽんと叩くと、アクセサリー類を勝手に片付けた。そしてテルルを軽々と抱き抱えると、見付かってしまった恥ずかしさと、叱られるのではないかという不安から顔を埋めて見せてくれない娘を連れて自室へ向かった。

 降ろされるなりベッドの下に隠れてしまったテルルをそのままにしておいて、クローゼットなのか本棚なのかよく分からない使われ方をしている家具から小さな箱と、ペンケースを取り出した。ベッドに座る。ペンケースは本来の用途にそぐわない物を入れられているようで、男性はそこからペンチを抜き取ると小さな箱の中身を手の平に置き、暫く考える。

 男性はベッドの下を見た。テルルが小さな寝息をたてているのが見えた。時間が思いの外経ってしまったようだと思いつつ、引っ張り出して起こしてやる。

 本当は、ママの誕生日プレゼントだったんだからな。

 テルルの左手首に、銀の繊細な、まるで金属の精霊が設えた様に彼女の手首に合ったブレスレットを着けてやる。

 ママには、秘密。

 テルルは左人差し指を立て口に当てて返事をする。そして悪戯っぽく笑って、男性に抱き付いた。

 小さなレディの手首で、ハート型のロードクロサイトが揺れた。


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06.06.05