にぃにがぼくの所に遊びに来てくれました。にぃには庭からガラスで出来た、横に動かすタイプのドアをトントンと叩いて、ぼくに合図を送りました。にぃにはドアを開けます。カラカラカラ。
「にぃに、こんにちは」
「おお。元気か?」
ぼくは「元気だよ」と言ったけれど、にぃには「お前もちゃんとあいさつが出来る歳になったか……」としみじみしていたので、勝手にしみじみさせる事にしました。しみじみじみ。
にぃにはぼくたちお気に入りのふかふかカーペットの上に「よっこらしょ」と横になりました。にぃに、時々おやじくちゃい。
ぼくもとなりに「よっこらしょ」とにぃにのマネして寝そべりました。にぃには「お前は年寄りか」と言いました。僕は何も言わないことにしました。
ちなみに、にぃにはあまり年よりではありません。
にぃには気がむいたらぼくの家に来ます。そして中に入って、『にぃにのタメになる話』をして帰ります。なので、今日も『にぃにのタメになる話』をしてくれました。
「猫が守るべきルールは2つだ。人間は、例えば子どもは学校に行ってじっとするトカ色々とルールがあるが、猫のルールは2つだ」
にぃにはお話を始めました。にぃには僕の母しゃんから教育がかりをたのまれたので、こうやってリッパなネコになる方法を教えてくれます。ケンカの仕方や、涼しい場所の探し方を教えてくれたのもにぃにです。
「1つは大人の言う事をちゃんと聞く事。もう1つはしっかり食べ、しっかり遊び、しっかり寝る事。」
にぃにはムネをはって言いました。僕はふむふむうなづいてから
「じゃぁ僕はいい子? にぃにの言う事ちゃんと聞いてるから、ルールちゃんと守るいい子?」
にぃにに聞きました。いい子はにぃにに好かれると思います。
「おう。これからも頑張れよ」
にぃにはそう、にっかり笑って言いました。僕はうれしいです。
「これだけ守れば、心も体も立派なオトナになれるからな」
「うん。がんばる」そう言うとにぃにがペロってしてくれました。ふふん。
その時、ゆうちんが帰ってきました。クツバコの所から、ゆうちんの声が聞こえてきますもん。僕は飛び上がって、ダッシュダッシュ!
「ゆうちゃんのお帰りか?」
にぃにの言葉が聞こえたけどダッシュ。にぃにが追いかけてくるけど、にぃにより先にクツバコにとおちゃーく!
かったかった。
ゆうちん、僕をジーっと見ます。んん……、落ち着かないよぉ。仕方ないから毛づくろい。ペロペロペロっ。…………あっ、ゆうちん行っちゃった。
ゆうちゃんは、さっきぼくたちがいたところにすわっていました。ゆうちんはぼくを抱っこして言います。
「またね、先生におこられたの」
ゆうちんしょんぼり。
「うしろの子がね、つついてきたからね、やめてよぉって言ったの」
人間ってきびしいんですね。ゆうちんたいへんだね。にぃにがゆうちんのおひざに手をのせて、「元気出せよぉ。ゆうちゃんらしくないぜ」ってはげましました。
「もう学校いやだよ。だっていっぱいルールがあるでしょ? たくさんおこられるのいや」
うう。ゆうちん泣きそう…………。ぼくはゆうちんをペロペロして「元気だしてよぉ」と言いました。でもゆうちんは泣き出しちゃって、その声を聞いたママが急いでやってきました。ママ、ゆうちん抱っこ。ぼくは落っことされました。
「ゆうちんネコだったらよかったのにね」
「人間に生まれたんだから仕方ないだろ」
むむぅ……。
「でもリッパなオトナになれたらいいじゃん。いっぱいルール無くてもなれるんでしょ?」
「でもな、人間だから仕方ないだろ。人間は立派なオトナの前に立派な子供にならねばならんのだ」
よくわからない。ぼくはゆうちんが元気なのが1ばん好きだけど、人間はそうじゃないみたい。
ゆうちんネコだったらよかったのに。