頬にキス

「ゆうちゃんへ
 ママは、おでかけします。おやつまでに、かえります。
 ケーキかってくるから、なるみさんの家で、まっててね。
 なるみさんに、ぜったいに、めいわくを、かけないこと!
 ママより」
 お手紙を元気よく読んで、ゆうちんは
「おばあちゃんち行こう!」
 と、ぼくをだっこしました。

 おばあちゃんの家には、家を出て、すぐつきました。

 ゆうちんは、おばあちゃんの所に行きました。
 ぼくはお母しゃんの所に行きました。
 お母しゃんは、お母しゃんのベッドにいました。ふかふかベッド。
 お母しゃんがペロペロしてくれます。くしゅぐったい。
「さくらの面倒見がええこと」
 おばあちゃんが言いました。いつのまに来たの?
「さて、夕花ちゃんのママは、いつ帰ってくるんでしょう」
 おばあちゃんが言うと、ゆうちんは
「おやつの時って書いてあった」
 と答えます。ゆうちん、元気ない。さみしいの?

 ゆうちん、さみしくない? さみしくない? だいじょうぶ?
 ゆうちん、ぼくの所に来ます。
 なでなで。
 答えになってないと思います。
 ゆうちん、そうじゃないの。ちゃんと聞いてた?
 でも……でも……ゴロゴロロロロ。
「たーくんゴロゴロ言ってるー」
 ゆうちん、ゴロロ、楽しそうで、ロロ、何より。

 ゆうちんがヒモであそんでくれました。
 ひらひらスキ。わくわくするから。
 失敗すると、お母しゃんが
「もっと観察してから飛ばないと」
「狩れると思ったら思いっきり行きなさい」
 って……。ちょっと、こわい……。
「もう、見てられない」
 お母しゃんはムクっと立って
「よく見ておきなさいよ」
 と言いました。そんで、ヒモを

 バシ!

 つかまえました。お母しゃん、すごい……!

 お母しゃんがヒモをこうげきしたので、ヒモはどこか逃げました。
「あれは要らない獲物だから」
 と、お母しゃんはトドメをさしませんでした。カッコイイ!

「ママまだぁ?」
 ゆうちんの足がバタバタします。ヒモがいなくなったから、おもしろくないんだと思います。
「遅いねぇ。どうしたのかいね?」
 ゆうちん、おばあちゃんも分からないって。
 ゆうちんは、ほっぺたプーって大きくします。へんなの。  おばあちゃんが指でツンってします。ぷしゅー。
「怒らんの」
 おばあちゃん、ゆうちんなでなで。おばあちゃんはいつもやさしいです。
「おやつ、先に食べる?」
 とおばあちゃんが聞くと、ゆうちん、うつむいちゃった。
 かんがえちゅう?
 ゆうちんの下に行って、かおを見ます。
「ママ、ケーキかってくるって、やくそくした」
 ゆうちん、どうしちゃったの?
「そうね、待とうか」
 おばあちゃん、ゆうちんなでなで。
 ぼくもペロペロしてあげるから、だっこして!

 ……ん?

 ゆうちん、おばあちゃん、音がするよ。
 げんかん行こうかなって思ったけど、ゆうちんのそばにいるからね。
「こんにちはー」
 声がきこえます。
「げんかん……。ママ!」
 ゆうちんが走ります。ぼくも走る!
 角を曲がって……うにゃ!?
 ゆうちん! あぶな……
「ぅわ!」
 ママとゆうちん、ごっつんこ……。言ったのにぃ。
 あ! いたくない!? だいじょうぶ?
「ゆうちゃん大丈夫!?」
 だいじょうぶ?
「うん。びっくりした」
 いたくない? いたくないんだね? よかったよかった。
 あ、おばあちゃん来たよ。
「おかえりなさい」
「いつもすみません」
 人間のごあいさつって、なんか、よく分かんないです。
 ママは笑って
「ほらー。ケーキ買ってきたよー」
 と言いま
「おおー!!」
 ゆうちん、声。ぼくビックリしたよ、ゆうちん。
「鳴海さんにもお土産です」
「ケーキ! ケーキ早くママ!」
「あんら、そんな、ええのに。美味しそうなお煎餅」
「はーやーくー!」
 ゆうちん、ママの周りでぴょんぴょん。楽しそう。ぼくも!
「すみません。こんなんなんで、おいとまします」
「お茶を出せたらねぇ、ええんやけど……」
「すみませんねー」
 ?

 お家に着きました。
 お母しゃんが
「たまにはね」
 と言って、ぼくの家に来ました。
 お母しゃん、チェックいっぱいしてる。
「うん。なかなか」
 ソファーにジャンプ。気に入った? ぼくもスキ!

 ゆうちん、ケーキおいしそう。でも、ぼくにはくれません。
 ズルイねってお母しゃんに言うと、
「だって、体に悪いもの。食べちゃダメ」
 とお母しゃんが教えてくれました。
 むぅ。
「あなたを大切にしてるからなのよ」
 むぅ……。

 ゆうちん、ケーキをゴックンして
「ママ、どこ行ってたの?」
 って、ママにききます。ぼくも気になる。
「ん? 病院」
 ママ、お茶をゴックンしてから言いました。
「えー!?」
 ゆうちんが大きい声出します。ゆうちん、ビックリしたよぉ。
「ほら、ゆうちゃんが大声出すから。たーくんがビビってる」
 お母しゃん、もう、たーくんヘトヘトだよぉ……。
「ママ病気だったの?」
「注射打ってもらったから、もう元気だよ」
 ちゅうしゃで元気になるなんてウソです。ゆうちんも分かったみたいで、かなしい顔です。
「だまってたのヒドイ!」
 ゆうちんが言います。ちゅうしゃの方がヒドイよ?
「だって……、ゆうちゃん心配するし。うつしたら困るし」
 ゆうちんが「むぅ」ってなります。ほっぺたプーです。
 やっぱり、へんなの。
「怒らないでよ」
 ママが言いながら、ほっぺたツンツンってします。
 まだ、おっきい。
「仕方ないなぁ」
 ママは笑って、プーほっぺたにチュってしました。
「許して、ね?」
 プーほっぺたが、「ぷ」って言って、ちっちゃくなります。
「ほら、未南[マナミ]の分のケーキ、食べていいから」
「ホント!?」
「内緒だよー? アイツどうせ夜遅いから」
 ゆうちんとママ、ニコニコがお。
 ぼくもケーキ食べたいよぉ……。

「ダメ」


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08.08.01